マック。

泣き腫らした目の僕を見て、きっとマックは「僕が頑張ってるのに何やってんのさ。』とでも言ってたんだろうか。昨日、仕事帰りに面会に寄った際、寝てるところを起こされてボヤーッとしたマックを抱きしめながら、僕は涙が止まらずマックの顔に自分の顔を何度も何度もこすりつける。
『もしかしたら一ヶ月もたないかもしれません…』
予想もしていなかった院長先生の言葉に僕は言葉を失い呆然とする。何とか動いていた内臓機能がここにきてだいぶ低下し、ここを治せば、とか、あそこが治れば大丈夫、とかの問題ではないらしい。何より自力でゴハンを食べないのがつらい。欲しがるのに食べない。今は病院で強制給餌をしてくれているけれど、そしてたまに調子がいいと少し自分から食べるそうだけれど。
今は何とか家へ連れて帰れる体になるように治療を受けているんだけれど、そしてうまくいけば土曜日につれて帰れるかもしれないけれど、いろんなこと、うまくやっていけるのかどうか不安はいっぱい。でもやっていかなくちゃ。
動物病院を出た後、僕はマックとの20年のあれこれを振り返り、どうにも涙が止まらなくなる。段ボールで捨てられていたマックは生後間もなくで目も開いていなくてノミだらけだったっけ。温泉旅行にも行ったね。河川敷に遊びに行ったこともあった。あのときはホームレスの人の家に入り込んで怒られたっけ。よく壁や布団に粗相をして何度も叱ったっけ。でも、一番つらかったのは、最初は愛情独り占めだったのに、猫がどんどん増えて愛情を独り占めにできなくなったマックなんだよね、きっと。

ここ数ヶ月、僕は本当に忙しい毎日で、朝も夜も点滴やら投薬やらで時間を取られるマックに怒ったりもしたけれど、でもあの時間って、きっとかけがえのない幸せな時間だったのだろうと思う。何で怒ったりなんかしちゃったんだろう。
マックが家に戻ってきたら、僕は精いっぱい笑おうと思う。他の場所では泣いても、マックの前でだけは笑おうと思う。そうして、マックには楽しい思い出をいっぱいいっぱい心に残してやろう。20年もそばにいてくれたマックには残された時間、この家にきて本当によかったって思ってもらえるような、そんな時間を過ごしてもらおう。

でもね、僕はこう書きながらも願っています。しぶとい性格のマックのことだから、もしかしたら一ヶ月どころか、8月に無事20歳の誕生日を一緒に迎えて、そして、またクリスマス、正月も一緒に迎えられるんじゃないかってね。だって、僕はまだまだマックを失いたくない。こんなことを言うと、マックに『また、いつか会えるじゃないか。』って怒られちゃいそうだけれど、僕はやっぱりまだまだマックのそばにいたいよ。